【東電前アクション!声明】

「汚染水問題」について
もはや収束不能の福島第一原発事故-政府・東電のなすべきこと


                                  2013年8月31日

 東京電力の福島第一原発事故における汚染水の海洋流出問題は、2011年3月11日に発生した原発事故の破局的事態をあらためて露呈させている。「レベル7」の福島第一原発事故は、その「収束」の過程において新たに「レベル3」(重大な異常事象)と原子力規制委員会によって評価されるという新しい段階に入った。

汚染水の海洋流出問題は、言うまでもなくいまに始まったことではない。東電自身の発表によっても、2011年5月から最大10兆ベクレルのストロンチウム90、20兆ベクレルのセシウム137などで汚染された水が約300トン海に流れ出たと推計している。そして、現在ストロンチウム90の核種だけでも1リットル8000万ベクレルの超高濃度汚染水が一日400トン発生し、海に流出を続けている。

東電による発表の遅れ、あるいは流出を防ぐ遮断壁建設をしなかったなどの東電への批判はあるとしても、私たちは原点に立ち返って想起しなければならない。そもそも、核燃料がメルトダウン、メルトスルー、そしておそらくメルトアウト(溶けた燃料が施設外に飛び出した状態)を起こした原発事故の「収束」など、元々不可能なのだということを。

「福島第一原発の収束作業とは何か?」…それは、再爆発・再臨界を防ぐために溶けた燃料にひたすら水をかける作業であり、主に3、4号機に残されている大量の使用済・前核燃料を回収すること以上のものにはならない。溶けて超高温の崩壊熱と人を即死させる放射能を発しながら地中に沈降する核燃料を回収する技術など存在しないし、今後も開発を見込むことはできない。

当然、核燃料に水をかければ、その分だけ汚染水は発生する。その汚染水をすべて回収することなど出来るはずもないし、保管する期間や場所にも自ずと限界は発生する。福島第一原発の上空からの写真を見れば、すでに敷地内はタンクで溢れている。それ自体超難問である新たな保管場所や保管方法を開発したとしても、今後十年から二十年、それ以上に発生し続けるであろう超高濃度汚染水をすべて回収して無害化することなど、到底不可能だろう。

政府は、福島第一原発の原子炉周囲の敷地を人工的に「凍土」にして地下水の流入を防ぐことで、汚染水の発生を抑制する案を語っている。しかし、冷却作業の過程ですでに周囲が沼のようになり地盤沈下をも起こして液状化している場所を「人口凍土」にして十年・二十年維持することなど、検証するまでもなく不可能だろう。数ヶ月を待たずして破綻することは、火を見るまでもなくあきらかである。このような実効性のないプロジェクトに時間と資金をかけること自体意味がなく、もはや許されるものではない。

反原発運動-市民運動の内部からも、「政府が収束作業に介入して汚染水の海洋流出を止めろ」という主張が聞かれる。しかし、たとえ相手が政府であろうが東電であろうが、技術的に不可能なことを求めるのは、時間と資金・人員という貴重なコストを無駄に払うことにしかならない。そして、「収束」作業員の問題についてスポイルしながら、「政府は早く収束させろ」あるいは「海洋流出を止めろ」などと主張することは、労働者を死地に赴かせることを前提に自分の身を守ろうとするものになるのは必然であり、社会運動のあるべき道徳にまったく反するものとして強く反対せざるを得ない。

この「汚染水問題」は福島第一原発事故が収束不能であることをあらためて示したに過ぎない。今後も様々な問題が露呈し、私たちに突きつけられることになるだろう。そして、福島第一原発の1~3号機の放射性物質のほとんどは、いずれ大気・地下水・海洋を通じて外に漏れ出すと考えるほかない。

私たちは、この福島第一原発事故の破局的事態の現実を見据え、人命を守る上での最低限の施策と、この過酷な原発事故を起こした責任主体である電力会社と政府、そして加害者の側にいると自覚すべき「日本国民」の最低限の倫理と道徳に基づいた対応が求められているものと考える。以下は、そのための提言と要求である。

■「収束」作業における政府介入について

原発推進が国策であった以上、事故の責任は東電のみならず、日本政府にあるのは当然である。その意味でこれまで「収束」作業を東電に任せきりにしてきたこと自体が問題であり、今回の「汚染水問題」の露呈によって、原子力規制委員会が現場に介入し、公的資金を注入することに反対するものではない。

しかし、東電が依然として日本企業第3位の5兆円もの内部留保を溜め込んでいる企業であることを忘れるわけにはいかない。そして、役員報酬を復活させ、いまだ多くの保養施設を保有していることも。それらの企業財産と歴代役員の財産の一切を処分して「収束」作業や被害者賠償に充てた上で、公的資金が注入されるべきである。

■「収束」作業員について

原発事故処理の「最前線」に立たされているのは、言うまでもなく現場の「収束」作業員たちである。政府-規制委が「収束」作業に介入した以上、これまでの何重もの下請け構造、労働条件の劣悪化、賃金切り下げ、ずさんな健康管理のあり方などの使い捨て状態が続くことは許されない。政府-規制委はなによりもまず、作業員たちの労働環境・条件の改善、下請け構造の一掃、過去にさかのぼっての健康管理の徹底を実施しなければならない。

■市民の生命・健康を守るために-「緊急事態省」の設置を

政府が現場に介入したからには、これまで東電が行ってきたような情報隠しは許されない。政府は以下に挙げることを速やかに実行しなければならない。

・新たな放射能漏れなどの事態の迅速な公表。

・放射能が漏れた量・今後漏れるであろう量に基づく今後十年の最悪の事態まで想定した「汚染予測地図」の作成。

・新たな「汚染予測地図」に基づいた避難計画の作成。また、非科学的な「被ばくしきい値」などの議論を一切やめて、年間被ばく量1ミリシーベルト以上になるであろう地域の人々の避難の権利の保証と生活補償。

・原発事故が「収束」しない以上、「除染による帰還あるいは地域再建による復興」などの幻想をもはや振りまくべきではない。政府がなすべきことは、前政権の「収束宣言」を安倍内閣として明確に撤回した上で、チェルノブイリ原発事故後にウクライナ政府が創設したような「緊急事態省」を新たに設けることであり、この「緊急事態省」が避難計画・被害者賠償・被害者の健康管理と生活補償を実施しなければならない。

■日本政府はまず世界に謝罪して国際的な責任を果たせ

すでに世界では、今回あかるみに出た「汚染水問題」によって、あらためて福島第一原発事故が「解決不能」と伝えられている(CNN報道など)。日本政府はあらためて、全世界に深く謝罪し、収束不能な現実を率直に告白した上でこのように付け加えなければならない。「原発を持ち、動かし、事故を起こすということは、このように100年に渡る制御不能で破局的な事態になるということです」と。

そして、このような過酷事故を起こした責任をとって、日本国内のすべての原発を即座に閉鎖し、ましてや原発の輸出政策など中止しなければならない。

また、このような放射能汚染を引き起こし世界に迷惑をかけておきながら、オリンピックを東京に誘致して世界中の人々を呼び込もうなどという恥知らずな愚行も絶対に許されない。日本政府はただちにオリンピック誘致を撤回しなければならない。

その上で、日本政府は原発事故の対応について、国際社会に必要な支援・援助を求めるものでなければならない。

■国連-IAEAおよびアメリカ政府-GE社は責任を果たせ

今回、日本政府-規制委員会が実質的に「収束」作業を「政府管理」下に置いたが、国連-IAEA(国際原子力機関)およびアメリカ政府も、福島第一原発の「収束」作業に介入するべきだと考える。

IAEAには、歴史的に世界に原発を推進し、管理してきた責任があるはずである。そして、アメリカ政府は、日本に原子力協定の締結を迫り、ジェネラル・エレクトリック社(GE社)の沸騰水型原子炉(BWR型)という粗悪原発を売りつけた責任から免れることは許されない。

IAEAおよびアメリカ政府-GE社は、福島第一原発の「収束」作業に技術面と資金面で責任を負う義務がある。原発を推進し、あるいは原子炉を売りつけて、事故が起きても知らぬふりという悪しき前例を福島第一事故で許すわけにはいかない。これは世界に対する責任でもある。

再爆発のような激的な崩壊に至らないとしても、今後100年続くであろう一円の利益ももたらさない「収束」作業に何百兆単位の予算を費やすということは、いずれ日本の国家財政さえ圧迫することになるだろう。アメリカ政府およびGE社は「収束」作業のための資金を無償提供する道義的義務がある。

■最後に日本の市民として

世界に対して日本政府が謝罪するべき言葉は、そのままこの原発事故を引き起こした日本に生きる私たちが発すべき言葉だと考えている。

日本のような「地震列島」の地に、原発を54基も建設させ、あまりに管理能力に欠けているのが明白だった電力会社・政府に対して、原発を止めるための努力は微弱なものだったと言わざるを得ない。私たちは、日本の市民社会の一員として世界の人々にあらためて謝罪したい。そして、その償いの証として、日本国内の残りの原発の閉鎖と原発の海外輸出を絶対に阻止する決意をあきらかにしたい。

その上で世界の人々に伝えたい。

「原発を持ち、動かし、事故を起こすということは、このように100年以上に渡る制御不能で破局的な事態になるということです」と。「これが原発であり、原発事故です」と。

そのことを伝え、原発そしてあらゆる核を世界から一掃する努力のために、これからもともに歩ませてほしい。

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